等級の中で具体的にいくらの賃金を払うかは、成績評価を通して実質的に管理者が決めます。この作業のことを賃金改定と言います。
1939年、物価統制令により労働者の賃上げが禁止されました。その例外として容認された「一斉昇給」が定期昇給の起源です。定期昇給は、最近は賃金改定と呼ばれることの方が多くなりました。
パート労働者の賃金が生活保護の支給水準よりも低いことが問題になっています。たしかに法定労働時間の上限(月間173時間)を働いても生活できないとしたら、「市場の失敗」(市場メカニズムが資源配分を歪める)の典型といえます。
正社員とパートの間の最大の処遇格差は、正社員にある賃金改定がパートにはないことであるといえましょう。パートに賃金改定がないのは、教育訓練が行われないからです。どこの職場でも、正社員には新入社員研修を始めさまざまな教育が行われますが、パート社員は採用初日から現場に立たされます。
能力にはマナーやパソコンのようにどこの会社でも通用する能力と、自社の製品の特徴や機械の使い方のようにその会社でしか通用しない能力とがあります。このうちどこでも通用する能力に関する教育は、会社にとって必要でありながら、成果が出てきたころに辞められては損をするという悩ましさがあります。そこで万一辞められても損をしないように、「授業料」相当額を実質的に本人に負担させる意味で、新米のときの賃金を低く抑えます。新米の時期を過ぎると、その後の教育の成果もあって生産性が向上してきます。それに応じて賃金を上げてやらなければ、社員はより高い賃金を払ってくれる会社に転職してしまいます。こういう事情があるので正社員には賃金改定が行われます。
このようなメカニズムはパート社員に働きません。「新入パート研修」というものはないので授業料を徴収する代わりに初任給を低く抑える必要がありません。他の教育もないので生産性は向上しません。生産性が向上しないので、会社が「教育損」をするリスクもありません。だから何10年勤めても同じ賃金というわけです。
もちろんこれはパート社員が無能だという意味ではありません。その仕事をする能力は向上しないということにすぎません。パートにも教育を行うべきだ、あるいは賃金改定をすべきだと主張するものでもありません。そのようなことを企業に義務付けたら、パートの求人さえなくなってしまうでしょう。