6-2.昇進が組織への広汎な貢献を意識させる

評価制度のセミナーや社内説明会で繰り返し聞かれることのひとつに、「評価項目にないことは無視しても良いのですか?」というものがあります。答はもちろん「NO」です。

 

日常起こりうるすべての場面について「こういう場合はこう対処したか」というような評価基準を設けることは不可能であり、評価すべきすべての事象を網羅した評価制度というものはあり得ません。これはおそらく本質的に克服不可能な問題でしょう。それでも、挨拶もできないような人が出世できるはずがありません。

 

従業員が、評価項目以外のことを無視すべきでない理由は昇進にあります。

 

賞与や昇給では通常、評価項目以外のことはいっさい考慮されません。評価項目にないことも考慮するのでは、何のために評価制度や賃金制度を設けたかわからないからです。

 

しかし昇進においては違います。昇進には「○期連続でAを取ったら昇進」とか、「最近○期間の平均点が○○点以上なら昇進」とかというような明確な基準はありません。誰の評価が何点で、どの評語をとったかということ自体が公開されていません。昇進は、いわば会社の好きなようにできてしまいます。それだけに社員は「評価項目にあることさえやれば、あとは何もやらなくて良いのだ」と思うことはできません。

 

また昇進は候補者が絞り込まれているので、評価項目にない要素についても多角的に検討することができます。このことがむしろ効率的でさえあります。たとえば新興国との激しい競争にさらされ、知的所有権紛争にも巻き込まれて潰れかかっていた部門を建て直し、ようやく収支トントンの状態まで持ってきたX部長と、政府によって保護された市場で安定的な利益をあげてきたY部長とがいたとします。あらゆる財務的指標でみてY部長の方が良好で、賞与や昇給などのための、定期的な評価にける成績も上だったとしても、本質的な意味での業績はX部長の方が顕著であり、取締役に昇進させるならばX部長の方が、優先順位が高いはずです。ここで杓子定規に過去の成績だけで昇進を決めるような経営者は賢明ではありません。

 

このように昇進は従業員に近視眼的でない、組織へのより広汎な貢献を意識させる効果があります。

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