8-2.賞与を支給する理由ははっきりしない

年功賃金や終身雇用には経済的な合理性があり、程度の差こそあれ、先進国には共通してみられる現象です。しかし賞与には合理的な説明ができないと言われます。

 

なぜ賞与があるのか、その理由としてまず言われるのがインセンティブ(人を動かす力)効果です。一所懸命働けば会社の業績が上がり、一人あたりの賞与額が大きくなる。さらに同僚と比べても目覚ましい働きをすれば、査定によって平均以上の賞与が貰える。だから社員は手抜きやただ乗りをせずに働くのだという説明です。

 

一定の説得力はあるように思えますが、いくつかの疑問があります。まず社員が「努力すれば会社がきっと認めてくれるはずだ」と思う度合は小さな企業ほど強いでしょう。社員が何万人もいる大企業で、全員を公平に評価できるわけがありません。

 

また「私が頑張れば会社はきっと良くなる」と思う度合もやはり小規模企業ほど強いはずです。そうであれば、小規模企業ほど賞与を重視するはずです。

 

しかし統計的にみると、賞与の絶対額も月例給与に対する倍率も、大規模企業ほど大きくなっています。また、賞与がインセンティブ効果を持つならば、諸外国もこれを導入するはずです。

 

賞与がある理由として言われることの第2は、人件費を変動費化する効果です。「これくらいの仕事をする人にはこれくらいの年収を」という金額をすべて月例給にしてしまったら、不況の時には直ちに整理解雇をして人員を減らさなければならなくなります。賞与が緩衝材の役割をするので社員は失業せずに済み、会社は投入した教育訓練費用を無駄にしなくて済んでいるという説明です。

 

しかし雇用調整に相当するような人件費調整機能を、はたして賞与は持っているでしょうか。もちろんどの企業でも賞与と会社業績はある程度連動させています。しかしそれは限定的であり、年間の人件費総額を10%も20%も調整するようなものではありません。私も計量経済モデルを使って企業業績と賞与の関係を分析したことがありますが、両者の間に統計的に有意な関係はほとんどみられませんでした。

 

このように、はっきりした理由がないながらも、日本ではまだほとんどの会社が賞与を支給しています。十分な年収水準を維持していても、賞与を支給しなければ、社員からは「ウチの会社は賞与もない」と見えてしまうことでしょう。

 

(参考文献)

大湾秀雄・須田敏子『なぜ退職金や賞与があるのか』(『日本労働研究雑誌』2009年4月号所収)

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