23-3.なぜ日本にだけ定年があるのか

定年は、それ以上雇い続けると賃金が高くなりすぎるためにあると言われています。

 

日本に特徴的な雇用慣行のひとつに、企業が教育訓練を行うことがあります。日本の大学生は勉強をしないといわれますが、特に人文科学系や社会科学系では、学問がそのままの形で職業に役立つことはほとんどない上に、仕事に必要な能力は企業が訓練してくれるのですから当然です。

 

企業による教育訓練が年功賃金、ひいては定年と結びついています。訓練をする以上、素質がある学生を採用しなければならないので募集経費が高くつきます。入社後数年間は、企業としてはむしろ授業料をもらいたいくらいなのに給料を払います。このように大きな初期投資をした社員に辞められては困るので、企業は年功賃金を払います。年功賃金では、若い時は生産性を下回る賃金しか払わず、中年以降になると生産性を上回る賃金を払います。苦労が実る時期を後回しにすることによって、辞めにくい状況を作ります。このような損得勘定は期間を定めなければ成り立ちません。その終点が定年です。新米時代の「授業料」と、新米ではないが若い時の賃金「過小」分、高齢になってからの賃金「過大」分が定年到達時に均衡するように賃金制度が設計されています。

 

したがって、定年後再雇用時に正社員時代より賃金を減額することは合理性があります。「同じ仕事をしているのに賃金が下がるのはおかしい」と考えことは、心情としては理解できますが、逆に同じ仕事をしているのに賃金が上がってきたことも考慮すべきです。どれだけ減額するかは正社員時代の賃金カーブとの兼ね合いで決めなければなりません。これを経ずにいきなり「7掛けだ」、「8掛けだ」と数字を出すのは乱暴な議論と言わざるを得ません。

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