23-4.人は定年の3歳前から老け込む?

定年はそれ以上雇い続けると賃金が高くなりすぎるためにあります。しかし一般的には、加齢に伴って能力や意欲が低下するから定年制があると考えられています。確かに人間いつかは必ず衰えます。しかしそれは60歳なのでしょうか。

 

精神科医で老人医学が専門である和田秀樹氏は、「70代も中高年もほとんど変わらない」といっています。その一方で、定年制を含む年齢差別が違法でありながら、能力不足を理由にする解雇に対して寛大であるアメリカでは、60~65歳層の男性労働力率(その年齢層の全人口に占める、就業者または失業者の割合)は、この層の雇用が義務づけられている日本よりも低くなっています。やはり人間は60歳から衰えが始まるのでしょうか。

 

いささか古い資料ですが、厚生労働省が1981年に行った「加齢と職業能力に関する調査」によると、「普通に働ける年齢はおよそ60歳以上である。」という問いに対して、55%の従業員が「そう思う」と答えています。「ある程度の配慮があれば働ける年齢はおよそ60歳以上である。」という問いに対しては86%の従業員が「そう思う」と答えています。1981年といえば、法定定年年齢が55歳であり、60歳定年が努力義務ですらなかった時代です。その当時でも、60歳はまだまだ働けると評価されていました。一般の労働者と同列に論じることはできませんが、当時と今とではスポーツ選手の寿命が格段に伸びたことを考えると、いま仮に同様の調査を行った場合、同意する割合はさらに上がっていると予想されます。

 

私は以前、社会人向けの職業能力研修校で講師を勤めたことがあります。受講生には20代から60代まで幅広い年齢層の人がいました。そのときの経験でも、学力やパソコン能力に関しては、年齢と能力は完全に無相関だった印象があります。

 

中高年は意欲がないという評判もあります。これに関して「パーキンソンの法則」で知られるイギリスの歴史学者・政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンが興味深いことを言っています。人の能率は一定の年齢ではなく「定年マイナス3歳」から減退し始めるということです。55歳定年なら52歳、60歳定年なら57歳です。たしかに55歳定年であった当時の52歳と現在の52歳は全然違う印象があります。これはもちろん、定年の3年前ともなればもはや昇進や大幅な昇給は望めず、インセンティブが不在であることが原因であり、生理的なことが原因ではありません。

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