この原稿を書いている2014年6月27日現在、上場企業の株主総会が集中的に開催されています。そしてソニーの平井一夫社長が、会社が大幅な損失を計上しているにもかかわらず、1億8千万円の報酬を得ていることが論議を呼んでいます。ことの是非は別として、ひとつ言えることは、1億8千万円という金額は、同社の発行済み株式1株あたりに換算すると18銭だということです。仮に平井社長が報酬を全額返上したとしても、ソニーの株価は1円も上がらないでしょう。
役員の高額報酬を支持する意見は、おおむね次の2つに集約できます。ひとつは役員の働きいかんによって企業価値は大きく左右されるということ、もうひとつは役員にやる気を起こさせるには高額の報酬が必要だということです。
レイチェル・ヘイズとスコット・シェーファーは1990年、CEO(最高経営責任者)が不慮の死によって退任した企業と、他社からの引き抜きによって退任した企業の、時価総額(発行済み株式数×株価、つまり会社の値段)の変動を調べました。不慮の死は能力と関係ありませんから、これを遂げたCEOは平均的な能力を持っていたと考えられます。いっぽう引き抜きによって退任したCEOは平均以上の能力を持っていたと考えられます。結果は、CEOが引き抜きによって退任した企業は、不慮の死によって退任した企業よりも、時価総額が2,000万~5,000ドル多く下落していたということです。この論文が発表された1990年当時の円相場である145円で換算すると、29億~73億円です。ヘイズとシェーファーは、この差は、会社を去ったCEOの能力の違いに起因していると言っています。
(参考文献)
デイビッド・ベサンコ/デイビッド・ドラノブ/マーク・シャンリー『戦略の経済学』(2002、ダイヤモンド社)