38-4.解消のための具体策

では長時間労働を克服するためにどうしたら良いのでしょうか。

 

第一は「ピア(同僚)効果」を元から封じ込めることです。

 

ピア効果とは、周囲の人の影響を受けることで、仕事の進め方にはこれを受けやすい性質があります。ほとんどの国では定時退社が当然視されており、日本人も海外赴任をしているときはそうしますが、帰国すると再び長時間労働に戻ってしまうといいます。

 

定時を過ぎても当たり前のように、同僚から「○○さん、あれはどうなってたっけ?」と声をかけられるようなことはピア効果の典型です。これでは帰るに帰れません。こういうことは所定労働時間のうちに済ませてもらうようにします。

 

長時間労働者に対して、週の何日かを定時前に退社させている会社もあります。これもピア効果を元から断つ施策といえます。

 

第二は、仕事に必要以上のていねいさを求めないことです。

 

日本人の長時間労働を分析した黒田祥子氏と山本勲氏は日本人は「効率的に非効率なことをする」といっています。書類のフォントや改行幅をそろえるようなことを器用にやるが、その器用さを発揮して何を作っているかというと社内会議の資料だったりするという意味です。

 

物事は重要な2割のことだけをやれば、全部やった場合の8割の効果があるという、「パレート法則」というものがあります。5倍の時間をかけて残り2割の成果を追求したりしないことです。

 

「電話1分以内、議事録1枚以内、会議1時間以内」や「会議の時間・人数・資料各半減」「資料3分の1削減」などの運動をしている会社もあります。

 

第三は公正な評価です。きちんとした評価がなされるなら、やるべきことをやれば胸を張って帰宅できます。それがない状況では、長時間働くこと(しかし残業手当を請求しないこと)が一番効率良く上司の心証を稼ぐ手段になってしまいます。

 

労働時間に関する社内風土は長い年月をかけて形成されたものです。右で述べたような対策を一度にすべて行うことは困難かもしれませんが、段階的に導入することはじゅうぶん可能なはずです。

 

(参考文献)

『労働時間削減と生産性向上策事例』(労政時報3873号)。

黒田祥子氏。山本勲氏『労働時間の経済分析』(2017、日本経済新聞社)

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