6-3.昇進したときの賃金

昇進した場合の賃金は、昇進した先の等級の下限値と、その従業員が昇格前に受けていた賃金のいずれか高い方とします。

 

したがって昇格前に受けていた賃金の方が新しい等級の下限値よりも多い場合は、従来受けていた賃金そのままであり、昇進に伴う昇給はありません。昇給前に受けていた賃金が新しい等級の下限値よりも低い場合は下限値まで、昇進に伴う昇給があります。

 

昇進に伴う昇給がない人でも、昇進すれば次回の賃金改定の際の水準係数(改定前の賃金の多寡による係数。賃金が低いほど大きい)が上がります。昇進しなかった場合に比べて賃金の上りが大きくなりますし、上限値も高くなります。けっしてメリットがないわけではありません。昇進は最大のインセンティブです。メリットのない昇進はありえません。

 

昇進には2種類あります。上位の職務に欠員が出て補充する場合と、市場や技術の変化に伴って、同じ職位であっても職務の内容が高度化した場合です。「能力主義」ではないので、たとえ能力が伸長したとしても、仕事が変わらないのに昇進することはありません。上記のことがなければ、どれだけ良い成績を継続的にあげても昇進はしません。いずれにしても賃金決定は上記のような方法で問題が起こりません。

 

問題が起こるのは降格させた時です。上位の仕事で務まらないという理由で降格されたのであれば、これは本人の責任ですから、賃金を降格先の等級の上限まで下げても問題ないでしょう。しかし現在の等級が人員過剰になったとか、システム化によって簡単になったとかいう理由で降格された場合は、減給して良いかどうか議論の余地があります。

 

「効率性賃金」という仮説があります。ひとことでいえば、十分な賃金を支払わなければ、賃金の低さを帳消しにして余りあるほど労働者の意欲が失せて、収益はかえって悪化するという考え方です。しかし何が十分な賃金であるかは個別の労働者の能力や取り巻く経済情勢によります。有能な労働者であれば、辞めても再就職先はいくらでもあるので、「こんな会社辞めてやる」と思って、手抜きやサボりを行う可能性もあります。それほど有能でない人は、「給料を減らされても、雇ってもらえるだけありがたい」と思うかもしれません。

 

1990年代中盤までの日本であれば、世界でも例外的に失業率が低く、退職することに今ほどの勇気は必要としませんでした。そういう状況では「十分な賃金」の水準が高かったでしょう。しかし最近の雇用情勢は当時とは全然違います。解雇を回避するための配置換えやそれに伴う降給であれば、従業員の理解が十分得られるはずです。

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