4-3.職務給のメリットとデメリット

このコラムの前の章で、日本企業にいま求められる賃金改革の一つとして、年功賃金から職務給への転換ということをあげました。

 

職務給のメリットは、まず「賃金は労働の対価」という原則にかなうことです。賃金が労働の対価であることに疑いの余地はありません。しかし同じ仕事をしていながらも勤続年数や家族構成によって著しく異なる賃金制度は、労働の対価としての性格がすべてであるとは言えません。

 

また、仕事の価値に応じた賃金を払うので、賃金の払いすぎが起きません。賃金の払い過ぎが起きないので、リストラも起きにくくなります。

 

さらに、職能資格制度において悩みの種であった、経験者採用の初任給をどうするかという問題も解決されます。職能資格制度で、経験者採用の人の初任給をいくらにするべきかは、正直なところ私にもわかりません。しかし職務給であれば容易に決められます。わが社での勤続年数がゼロであることを理由に、不当に低い賃金に抑える必要がないので、同じ企業が職能資格制度である場合に比べれば、優秀な人材を採用しやすくなります。

 

職務給に関してしばしば指摘されるデメリットは、人事異動が行いにくいということです。賃金が仕事の内容によって決まるならば、社員を今より低い賃金に甘んじさせるべき仕事に異動させた時には、賃金を下げなければなりません。本人に責めを負わすべき理由がないとき、それは不合理であるという考え方です。

 

しかし時代はもはや既得権を保証できるような状況ではありません。需要が限られた世界で、賃金も雇用もともに保証するということは不可能です。いわゆる左遷でないならば、これは受け入れた方が社員のためではないでしょうか。無理して既得権を保証しようとすると、何かを改革しようとするとき、とりうる手段はリストラだけになってしまいます。 

 

職務給を採用すると、市場や技術の変化に対応して職務の価値評価も変えてゆかなければなりません。このコストを問題にする意見もあります。これはもっともな指摘です。しかし環境変化に対応して価値判断の基準を変えてゆかなければならないことは、能力給であってもあてはまることであり、ひとり職務給だけの問題ではありません。

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