9-1.文句のつけどころがない評価はあり得ない

私事で恐縮ですが、以前、ある専門学校で非常勤講師を務めました。その中で最も厭わしかったのが受講生の評価をする仕事です。担当したのはファイナンスですが、基本的に試験とレポートの点数で成績をつけました。たとえば試験では「確実性等価」を「確実同値額」と書いてくる人もいました。許容されるかどうか調べなければなりませんし、一人を正解にしたら他の人も正解にしなければならないので、覚えておかなければなりません。

 

レポートは、表面的な優劣をつけることはむしろ試験より容易でした。しかし明らかにコピペ(インターネットからの丸写し)と思われる記述に悩まされました。証拠がないので失格にできません。外国人の受講生は英語で書いてくるので、そうなるとコピペはもちろん術語の誤りにも気付きません。公正に評価しているつもりですが、毎期必ず「どうして私がBなんですか」という問い合わせが来ました。正直、「評価手当」ともいうべきものが欲しいと思いました。

 

答案用紙とレポートの中で完結している、学力の評価でさえこれほど難しいのですから、人事の評価は尚更です。よく「うちの会社の評価はメチャクチャだ」という人がいます。しかし、仕事で日常起こりうる状況というものは無限であり、それらをすべて紙に書き、「こういう場合はこうせよ」という処方まで書くことは不可能です。仮に書いたら何百ページにもなって、誰も読めません。したがって誰からも文句のつけどころがない、○×式試験のような評価基準を作ることは不可能です。

 

また上司は複数いる自分の部下を四六時中監視しているわけにはいきません。たまたま良い場面あるいは悪い場面だけを目撃する可能性は大いにあります。自分の目で見なかったら、いい加減な情報をつかまされます。このため上司が誠心誠意公平に評価した結果、「どう考えてもAさんの方が貢献しているのに、この評価ではBさんの方が高得点になってしまう」ということが頻繁に起こります。

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