3-2.金銭的インセンティブのメリットとデメリット

業績給、歩合給、あるいはインセンティブなどと称される、明確な計算式に基づいて支払われる賃金制度があります。もちろんこれには明らかなメリットがあります。

 

まず生産性を向上させます。ミルグロムとロバーツによると、業績給は生産性を15から35%向上させます。

 

第2に、監督者にとって悩ましい成績評価のコストを減らしてくれるというメリットがあります。

 

第3に、えこひいきや差別の影響を、いわゆる行動評価よりは受けにくいというメリットがあります。

 

そして第4に、業績給中心の仕事に応募してくる人は、自分の実力に自信を持っているケースが多いことがあります。

 

一方で業績給には問題もあります。

 

第1に、よほど恵まれた条件のもとでない限り、社員間に有利・不利が発生します。たとえば営業担当者でも、担当する顧客や商品によって売上が稼ぎやすい場合とそうでない場合があります。こうした担当の割り当てでえこひいきや差別が起こる可能性はあります。

 

第2に、業績給は社員の収入にさまざまなリスクをもたらします。地震や水害などの自然災害、外国の債務危機などの突発的な出来事は、社員本人の行動とは関係ありませんが、所得に大きな影響をもたらします。前もってリスクを予測することはできないので、「こういうことが起きた場合の、あなたの給料はこうする」というようなことを契約に盛り込むことはできません。その見返りとしてリスクプレミアム(リスクを伴う契約を引き受けることの対価)、つまり同じ業績であれば、固定給の社員より多くの賃金が支払われるような制度を用意する必要があります。

 

第3に、個人への業績給はグループでする仕事にほとんど効果を持ちません。たとえば営業事務の担当者に、起こした伝票の数に応じて賃金を払おうとしても、受注が来ない限り起票することができないので、これによって意欲を刺激することはできません。

 

そして第4に、業績給を稼ぐ上で効率の悪い仕事を無視させることになります。仮に商品Aと商品Bがあって、Aの販売活動に1時間従事すれば2,000円の業績給が稼げ、Bの販売活動に1時間従事しても1,500円の業績給しか稼げないとすると、社員は商品Bの販売にまったく関心を示さなくなります。

 

たとえば証券会社の歩合制外務はみな、報酬を稼ぐうえで最も効率が良い、株式の販売だけに時間を使い、債券や投資信託などの販売にはほとんど時間を使わないそうです。

 

(参考文献)

ポール・ミルグロム、ジョン・ロバーツ著、奥野正寛、伊藤秀史、今井晴雄、西村理、八木甫訳「組織の経済学」NTT出版、1997年

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