31-1.企業業績に与える影響が最も大きい経営機能は人材活用

大学院の経営管理専攻コースで、最も人気がある講義は戦略論です。私が学んだ大学院では、他の専攻の院生まで聴講に訪れて、教室に入れない人まで出る有様でした。

 

これに比べて人材活用の講義は閑散としていて、教授からまるで家庭教師のように親密に指導を受けることができました。

 

たしかに経営戦略と聞くと、企業業績に対して特効薬のような効果があるように思えます。しかし会社の業績に与える影響が最も大きい経営機能は、戦略ではなく人材活用です。イギリスで行われた調査で、「競争戦略」、「品質」、「製造技術」、「研究開発」、「人的資源管理」という5つの機能のうち、労働生産性と従業員一人当たり利益に最も強い影響力があるのは、人的資源管理であるという結果が出ています。(須田敏子『HRMマスターコース』慶応義塾大学出版会)

 

スポーツの世界では、チーム成績に一番影響力が大きいものは、疑いようもなく選手個々の力量です。戦法や道具などもある程度影響するでしょうが、それで選手の力の差を逆転することはできません。このように考えると、人材活用が最重要であることも頷けます。

 

人材活用とひと口に言っても、その中身はさまざまです。以前このページで紹介した、「フェファーモデル」といわれる、人材活用で成功するための条件が言及していることだけでも、雇用の保証、採用、チーム、報酬、教育訓練、待遇の平等化、そして情報の共有の7つがあります。

 

これら人材活用策の中で、中小企業が大企業に比べて遅れている最たる分野は教育訓練ではないでしょうか。教育はほとんどゼロという会社も珍しくありません。

 

教育はコストがかかることであり、コストはどうしても賃金に優先的に回さざるを得ないという事情は理解できます。しかし教育は、スポーツにたとえれば練習です。これが後回しでありながら、実戦で勝つのは難しいことです。

 

組織行動学で世界一のベストセラー教科書の著者であるスティーブン・P・ロビンスは、「キャリア開発における組織の責任」として、次の4つをあげています。

 

  1. 組織の目標や将来的な戦略を明確に伝える
  2. 成長機会を創り出す
  3. スキルや知識の向上に対して財政支援を提供する
  4. 有給で学ぶ時間を与える

(『組織行動のマネジメント』邦訳ダイヤモンド社)

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