31-2.資質より訓練

私事で恐縮ですが、私は学校を卒業して金融機関に職を得ました。そして2年目に、大手信託銀行に2か月間、研修生として派遣されました。そこで驚いたのは訓練量の違いです。

 

私はありがたいことに、会社からひとり派遣されて訓練を受けさせてもらいました。しかし私にしても、訓練を受けたのは、新入社員としてのオリエンテーションを除けば、この時が初めてでした。ところが派遣先の信託銀行では、総合職社員の全員が毎年、私が2か月で受けた以上の訓練を受けていました。宿泊可能な訓練施設があり、常に何らかの訓練が行われていました。「これではとても太刀打ちできない」と強く印象付けられました。

 

大企業と中小企業では、入社試験の難しさが違います。大企業の社員の方がもともとの資質が高い可能性は十分あります。しかしそれゆえに大企業の方が高賃金であるのかというと、必ずしもそうではありません。

 

東京大学の玄田有史教授は、製造業において、企業規模の違いによる賃金格差のうち、労働者の資質の差がもたらす賃金格差と、企業内での訓練機会の差がもたらす賃金格差の、相対的な重要性について分析しました。その結果、資質の差の影響が訓練の差の影響を上回る場合はほとんどありませんでした。訓練の影響が強い度合いは生産職よりも事務職において強く、特に「男子・大学卒・事務職」における企業規模間の賃金格差は、9割近くが職場訓練の差によって説明されるということです

 

(参考文献)

『「資質」か「訓練」か?―規模間賃金格差の能力差説』日本労働研究雑誌1996年1月号所収)。

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