39-3.財務の視点における目標

財務の視点とは、売上高や利益などの会計数値における指標です。

 

MBO(目標管理)では個人の成績を、各目標の「難易度×達成率×ウェイト」の合計値で測ります。財務一辺倒の目標では不十分ですが、財務目標が一番重要であることも事実です。一つの目安としていうと、全社目標の段階では、財務の視点では3項目程度の目標を設定し、それらを合計して40%程度のウェイトを割り振るのが標準です。

 

事業を、成長の可能性を秘めている「成長期」、軌道に乗った状態を持続すべき「持続期」、過去の活動の成果を収穫すべき「収穫期」という3つのライフサイクルに分けると、まず成長期には売上に関する目標が適しています。成長期にシェアを確保しておけば、いずれ利益が伴ってくると考えられるからです。この時期には売上高そのものや売上高成長率、シェアなどの目標を立てます。

 

多くの企業は持続期にありますが、この時期には利益に関する目標が適しています。一定の利益を確保しておけば、次の投資の原資として利用することができ、そうすれば事業が軌道に乗った状態を持続できるからです。この時期には売上総利益や営業利益など利益の絶対額、あるいは売上高利益率や使用総資本利益率など利益率に関する目標を立てます。

 

ただし売上総利益はともかく、営業利益や純利益だけという目標はお勧めしません。これらの利益は売上から人件費を引いたあとに残るものです。利益だけを増やして賃金を上げないような目標に、社員がまじめに取り組むはずがありません。

 

持続期にある企業に強くお勧めしたいのは、付加価値に関する目標です。日本企業が選ぶべき道は高付加価値であるということで、専門家の間で意見が一致しているからです。

 

付加価値は法律で定義された言葉ではありませんから、算式は複数あります。その中で代表的である、財務省の法人企業統計方式では「付加価値=営業利益+人件費+動産・不動産賃借料+租税公課」です。

 

動産・不動産賃借料と租税公課を一定とすれば、営業利益と人件費を増やせば付加価値が増えることになります。両者に関して目標値を設定します。

 

財務の視点で高付加価値を目標にすれば、「顧客」や「ビジネスプロセス」「学習と成長」など他の視点においても、自ずと高付加価値を実現するような目標が設定されます。

 

付加価値の額そのものではなく、付加価値率や労働生産性も目標になりえます。

 

収穫期には利益ではなく、キャッシュフロー(現金)に関する目標が適しています。

 

計算上は利益が確保できていても、代金が回収できていなかったり、在庫が多くなっていたりすると、会社にお金が残りません。成熟期にある事業にとって、これは甘受すべき状態ではありません。この場合フリーキャッシュフローやオペレーティングキャッシュフロー、投下資本キャッシュフロー比率などにおいて目標を立てます。 

 

 事業のライフサイクル別にみた、財務の視点における目標の例

ライフサイクル

上の位置

 目標の例
 成長期 売上高、シェア、収益、従業員一人あたり売上高、人件費1円あたり売上高
 持続期

売上総利益、営業利益、経常利益、純利益、売上高利益率、使用総資本利益率、

株主資本利益率、付加価値、付加価値率(付加価値÷売上高)、

労働生産性(付加価値÷従業員数)

 収穫期

フリーキャッシュフロー(税引き後営業利益+減価償却費-運転資本増加分)、

オペレーティングキャッシュロー(フリーキャッシュフロー+設備投資)、

投下資本キャッシュフロー比率(キャッシュロー÷(運転資本+固定資産))、

売上債権回転期間

 

(参考文献)

ロバート・S・キャプラン、デビッド・P・ノートン『バランス・スコアカード―新しい経営指標による企業変革』(1997、生産性出版)

ロバート・S・キャプラン、デビッド・P・ノートン『戦略バランスト・スコアカード』(2001、東洋経済新報社)

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