ピーターの法則を克服するためにはどうしたら良いのでしょうか。
第1の、昇進後のたるみに対する処方は「敗者復活戦」を設けることです。今年の昇進で漏れた人も、以後昇進の可能性をなくするのではなく、来年以降昇進する可能性を残しておきます。敗者復活戦を導入すると、いったん昇進しても安心できません。昇進できなくても直ちにあきらめられません。競争は熾烈になり、かつ長期化します。その反面、上の世代が延々と競争しており、後に続く世代の番がいつまで経っても回ってこないので、下の世代のインセンティブが下がるという影響もあります。しかしそのことを考慮しても、敗者復活戦を導入した方が、導入しない場合よりも組織の利益が大きくなると言われています。
第2の、昇進後の仕事に対する適性のなさという問題については、滞留期間を長くすることです。たとえば今まで早ければ3年で昇進させていたところを、4年ないし5年にするということです。その分慎重に資質を見極めます。ただしこの方策には、有能な人を程度の低い仕事に従事させる(宝の持ち腐れ)期間が長くなるという不利益があります。見込み違いを少なくするという利益とどちらが勝るかは状況によります。何年長期化するかは個別に判断しなければなりません。
第3の、ゴマすりと足の引っ張り合いということについては、昇進のメリットを小さくすることや、ある程度年功序列的な要素を取り入れることが有効です。職階というのはある意味で身分差別的なものです。賃金だけでなく座席の位置や椅子の品質にも差異を設けます。賃金格差を今までより小さくすることは、予算の面でも労働契約の面でも難しいので、身分差別的なものを緩和します。年功をある程度考慮するようになると、ゴマすりや妨害行為をしても何にもならなくなります。もちろん、これらの方策はインセンティブをも低下させるので、諸刃の剣です。どの程度メリットを小さくするか、年功色を強めるかは状況次第です。
第4の事なかれ主義への対策としては、昇進の基準を甘くすることが考えられます。ある程度過剰に昇進させます。このような意見には抵抗があるかもしれませんが、確率の低い昇進が事なかれ主義を招いているとしたら、甘い昇進によって失う利益と、従業員の競争意欲を高めることによって得られる利益を比較する価値はあります。
(参考文献)
清滝ふみ『企業特殊的人的資本投資によるホールドアップ問題とピーターの法則』関西学院大学経済学論究、2003年
清滝ふみ、熊谷礼子「人事の経済学への応用ー昇進のインセンティブ効果とピーターの法則」伊藤秀史、小佐野広編『インセンティブ設計の経済学』勁草書房、2003年