会社業績から見て妥当な賞与原資を算出する方法のひとつとして、ラッカープランという方法があります。アメリカの経営学者アレン・ラッカーが考案しました。一言でいえば、賞与算定期間を通した労働分配率を事前に決めておき、これに対して余った人件費を賞与原資とする方法です。
ラッカープラン例
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例 |
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a.予定労働分配率 |
65% |
期初に決定。過去5年間の実績平均など。 |
b.加価値の実績 |
¥500,000,000 |
営業純益(営業利益-支払利息等)+役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費+支払利息等+動産・不動産貸借料+租税公課 |
c.予定人件費 |
¥325,000,000 |
a×b |
d.人件費実績 |
¥300,000,000 |
基本給、諸手当、福利厚生費など。 |
e.賞与原資 |
¥25,000,000 |
c-d |
- ①予定労働分配率
まず事前に(賞与原資算定の対象になる期間が始まる前に)予定労働分配率というものを決めます。
労働分配率とは「人件費÷付加価値」の値です。人件費や付加価値については後述します。
予定労働分配率は目標ではありません。目標というものは、達成できるかできないか微妙なもののことを言いますが、予定労働分配率は「これに対して余った分は従業員の賞与に回す」というものですから、過去の実績からみて十分余剰が出る値にします。具体的には過去5年間の平均値からスタートするのが良いでしょう。ただしいつまでも過去の平均値を使っていては労働分配率が下がらず、会社が成長しませんから、毎年少しずつ下げて行きます。
- ②付加価値
付加価値とは企業が生み出した価値のことです。たとえばパンは、ある意味では小麦粉の塊です。しかし同量の小麦粉よりはるかに高い値段で取引されます。この小麦粉とパンの価格差は企業によって生み出されたものであり、付加価値です。しかしこのような概念的な定義では付加価値の金額を特定できないので、実務上は
付加価値額=営業純益(営業利益-支払利息等)+役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費+支払利息等+動産・不動産貸借料+租税公課
という算式で計算します。
もっとも付加価値に統一的な定義式はありません。これは財務省・法人企業統計方式と呼ばれる算式です。
- ③予定人件費
人件費=役員給与賞与+従業員給与賞与+福利厚生費
です。付加価値に予定労働分配率を掛けたものを予定人件費と言います。「予定」といっても付加価値が決まらなければ算出できないので、その意味で期末に事後的に決まる値です。
- ④賞与原資(会社業績スライド分)
予定人件費と実際にかかった人件費との差額が、賞与原資の会社業績スライド分です。
新しい方法を取り入れるのは勇気が要るものですが、ラッカープランは半年間(賞与算定期間)の労働分配率を予定労働分配率と一致させようとする仕組みです。予定労働分配率を自社の実績並みに定めるならば、事後的な労働分配率も当然実績値並みになります。その意味ではそれほど大きな変化ではありません。この方式で賞与原資の半分を決めます。
(参考文献)
笹島芳雄『アメリカの賃金・評価システム』日経連出版部、2001年