計算式の話ばかりしてきましたが、改めてEVA®(経済的付加価値)を使う意味について考えてみます。それは、企業は「資本コストを上回る利益」(=EVA®)をあげて初めて、その価値が高まるということです。
たとえば自己所有の土地があったとします。そこにアパートを建てて、金利や減価償却費を差し引いて、いくらかの利益があったとします。空き地にしておくよりはましですが、駐車場にした方が、同程度のリスクでありながらより高収益であるとしたら、その差額の分だけ、土地を無駄遣いしていることになります。
EVA®に着目することは、資本の無駄遣いを意識することです。駐車場が、同じリスクでは最善の土地活用手段であるとしたら、駐車場を経営した場合に得られるはずの利益が、その土地の資本コストです。
社長の業績指標としてEVA®を紹介しましたが、企業の中には工場や支社など、部門としてのEVA®が計測可能な場合、これに担当役員の報酬を連動させているところもあります。
「選択と集中」という言葉があります。不採算事業からは撤退して、優位性がある事業に集中せよという意味です。その際の事業の選別基準としてもEVA®が使えます。
日本企業は高付加価値化する必要があるとよく言われます。では高付加価値とは何か。ひとつの目標としてプラスのEVA®をあげてはじめて高付加価値だということもできます。
もちろん、他の業績指標と同様、EVA®にも限界があります。ひとつはEVA®が高い、あるいは低いことが、経営手腕の結果なのか、経営と関係ない外部要因によるのかがはっきりしないということです。たとえば2008年の金融危機のようなことが起こったとき、マイナスのEVA®の責任を経営者に帰すのは誤りでしょう。
もうひとつの限界は、どのような事業も初めからプラスのEVA®が出ることはまれだということです。では何期目までならマイナスでも良いのかというと、正解はありません。
(注)EVA®はスターン・スチュワート社の登録商標です。