「人は簡単に変われない」という人がいます。これは指導者として非常に問題のある考え方です。
知能は遺伝的なものであって後天的に高められないという考え方を「決定論」、知能は経験や学習を通して向上させられるという考え方を「成長論」といいます。この考え方に大きな貢献をした心理学者キャロル・S・ドゥエックは次のような実験をしました。
ある学校で、生徒を2つのグループに分けて、脳の生理学的な機能や発達の仕組みについて8週間、授業をしました。一方のグループには「経験と努力によって知能は高められる」ということを繰り返し強調し、もう一方のグループではそのことにあえて言及しませんでした。その結果、前者のグループの生徒たちの数学の成績は1年を通じて向上したのに対し、後者のグループの生徒たちの数学の成績は低下しました(下図参照)。
高学年になるにつれ数学の成績が低下するのは一般的な傾向ですから、後者のグループの生徒たちは特別ではありません。数学の能力は天賦の才能に依存するという考え方も根強くあります。そんな数学の力さえも、努力次第で頭は良くなると刷り込むことによって向上しました。
決定論と成長論のどちらが正しいかは、実はまだ結論が出ていません。しかしドゥエックは、どちらの考え方をとるかによってその後の人生に大きな開きが出てくることだけは間違いないと言っています。
心理学者ハイディ・グラント・ハルバーソンは、決定論者は安全な賭けを望み、難易度が高い目標の設定を避ける傾向があると言っています。低い目標を立てる。上司としてこれほど不適格な人はいません。
育て上手な上司であるための第1の条件は、成長論者であることです。
ドゥエックによる実験
(参考文献)
キャロル・S・ドゥエック『マインドセット「やればできる!」の研究』(2016、草思社)
ハイディ・グラント・ハルバーソン『やってのける』(2013、大和書房)