2-1.年俸制はなぜ定着しなかったか

バブル崩壊以後、賃金制度に関して、新しい試みがいくつかなされましたが、いずれも短命に終わりました。代表的なものと言えば年俸制です。

 

一般的に年俸制といった場合、プロ野球選手の賃金制度のようなものを念頭に置いています。その特徴は成績次第で賃金が大幅に増えたり減ったりすることと、個人別の交渉で賃金を決定することにありました。

 

これが会社員に適用できなかった理由は、まず業績の正確な測定が難しいことにあります。個々の社員は自分だけの意思や判断で行動しているわけではなく、他人を助けたり助けられたり、指示を与えたり与えられたりしながら行動しています。結果的に成功しようとも失敗しようとも、どこまでが本人の責任なのかがはっきりとはわかりません。

 

さらに、事前に「これだけの業績をあげればこれだけの賃金を支払いますよ」という契約を会社と交わしたとしても、その時点で予測できなかったことで、個人の業績に影響を与える出来事が必ず起こります。最近の例でいえば地震やイギリスのEU離脱決定、「爆買い」の終わりのようなことです。そういう条件の中で、下げもありうる賃金制度であるならば、労働者としては、固定給を払ってくれる会社よりも高い賃金でなければ働きたがりません。日本人の賃金(所定内賃金)は平均で月24万円ですが、これで下げもありうる賃金制度では、有能な労働者を雇うことは難しいでしょう。

 

会社が個々の社員と賃金について相対交渉をするということも、現実的ではありません。社長がひとりひとりと交渉することは、よほどの零細企業でない限り不可能で、やるとしたら現場の管理職がやることになります。しかし管理職が過度に気前よく年俸を出さないという保証も、逆に出し渋って必要な人材を失わないという保証もありません。任せられるはずがありません。

 

 

(参考文献)

ポール・ミルグロム、ジョン・ロバーツ著、奥野正寛、伊藤秀史、今井晴雄、西村理、八木甫訳「組織の経済学」NTT出版、1997年

 

▲ページTOP