目標の修正には次のような類型があります。
1.追加
新しい目標を追加する場合、多すぎる目標は効果がないことに注意が必要です。「均等報酬原理」というものがあります。従業員を複数の仕事に対して努力させたい場合、1時間働いた場合に得られる報酬が、それらの仕事の間で均等になるようにしなければならないということです。たとえば証券会社の歩合制外務員は、株式や債券、投資信託などどの証券を販売しても業績給が支払われます。しかしほとんどの外務員は株式以外に見向きもしないそうです。同じ時間働くなら株式が業績給を稼ぐのに一番効率が良いからです。
MBOにおいても多くの目標を盛り込み、結果的にウェイトが非常に低い目標を含む人がいます。このような目標に対して努力する時間があったら、他のよりウェイトが高い目標に対して努力した方が効率的に点数を稼げます。その結果、小さな目標は無視されます。
2.削除
一度設定した目標を取り下げることは勇気を要します。本人はもとより、その目標について合意した上司の失敗とも受け止められかねません。しかし選択と集中はMBOの基本です。重要でない目標は思い切って削除します。
削除するにしても、いったんは上司が合意した目標です。削除する時点までの業績は評価します。たとえばMBO対象期間の3分の1が経過した時点で削除になり、その時点での達成率がやはり3分の1であるとすると、通期に換算すれば達成率は100%ということになります。しかし3分の1の期間で消滅しているので、ウェイトをもともとの数字の3分の1に修正するという具合です。
3.達成基準の修正
達成基準の修正とは、たとえば「100台売る」という目標を「120台売る」というように修正することです。変更する理由が景気のような、本人の努力と関係ないものである場合は達成基準を変更しても難度点を変更しません。本人の努力と関係がある場合は、目標にスライドして難度点も変更します。
高い業績をみて目標を上方修正することは合理的です。しかし同じ難度点に対応する業績基準を高くすることは絶対に避けなければなりません。高い業績をみて報酬基準を厳しくすることを「ラチェット効果」と言います。ラチェットとは逆回転できない歯車のことです。上司がラチェット効果を発揮するとしたら、それは部下をがっかりさせるというより、「やればやるほど損をする」という状況を作ることになります。
4.ウェイトの修正
ウェイトの修正はあくまで重要性に変化が生じた場合に行います。その時点までの達成状況に配慮して都合よくするとしたら本末転倒です。ここで注意することは前述のとおり、ウェイトが小さすぎる目標を作らないことです。そのような目標は思い切って削除します。
5.難度点の修正
何事も実際にやってみるまではわかりませんし、同じことでも外部環境によって難度は変わります。難度を途中で変更することをためらう必要はありません。ただしその場合はラチェット効果を出していないかどうか注意する必要があります。