業績の測定が正確であるならば、絶対評価の方が相対評価よりも働く者の意欲を引き出します。たとえばセールスマンの世界を考えてみてください。絶対評価の方が相対評価より高い意欲を引き出すことは明白でしょう。たとえ目標をはるかに超える金額を売りさばいても、順位が下位なら評価はDというのでは、やる気が出るはずがありません。
絶対評価は考え方としては公平です。「90~100点はS、70~89点はA、・・・」というのは、業績の1点に対する報酬という意味ではほぼ公平です。
それでは会社員にも絶対評価が良いかというと、必ずしもそうは言えません。実際には、何点から何点までをSにするというような線引きを決めることは容易ではありません。低すぎる線引きを設ければ、極端な場合全員がA以上になってしまいます。逆に高すぎる線引きを設定すれば、全員がC以下になってしまいます。結果を見て線を上げ下げするというのは、以前お話しした「ラチェット効果」(ご都合主義で評価基準を変えることは企業にとってむしろ不利益を招く)です。社員は「できないふりをすればバーを下げてもらえる。本気を出すとバーを引き上げられてしまう」と学習してしまいます。要するに絶対評価では最初から過不足ない線引きを正確に決めなければなりません。これは現実的ではありません。
また、何人Sを出そうとAを出そうと自由というルールでは、評価者に「あっちの部署ではみんなA以上なのに、こっちの部署はみんなB以下だ、と部下たちから言われたらたいへんだ。」あるいは「君は部下たちに何を指導しているの、と社長から言われたらたいへんだ」という意識が働くため、どんどん評価が甘くなってゆくという問題もあります。
(参考文献)高橋潔『評価の急所(へそ):パラダイムシフトを迎える人事評価』(2013、日本生産性本部生産性労働情報センター )